エンジェル税制と資本政策

 

1.エンジェル税制の利用状況

産業競争力会議(第4回、平成25年3月15日開催)に金融担当大臣から提出された資料にエンジェル税制について、以下のような記載があります。

エンジェル税制を利用した個人投資家の投資額は、約9.9億円(2011年度)。なお、米国におけるエンジェルの年間投資額は、1.5兆円程度といわれている。」(第4回産業競争力会議資料 新規・成長企業へのリスクマネーの供給について)

日本の個人投資家の投資額は、絶対額としても小さく、エンジェル税制の適用を受けていない投資の方がはるかに多いとしても、米国との開きは大きくなっています。個人投資家がベンチャー企業に投資しやすいようにするためにエンジェル税制が整備され、すでにかなりの期間が経過していますが、十分に利用されるには至っていないのが現状です。しかし、エンジェル税制は、それほど利用しにくいというわけでもありません。

2.エンジェル税制の概要

エンジェル税制は、エンジェル投資家に2つの優遇措置を認めるものですが、ベンチャー企業にとっては、エンジェル税制の適用を受けられると、個人投資家からの投資を受けやすくなる点がメリットになります。

1つめの優遇措置は、ベンチャー企業へ投資した年に受けられる優遇措置で、総所得金額から「ベンチャー企業への投資金額-2000円」を控除するか(優遇措置A)、その年の他の株式譲渡益からベンチャー企業への投資金額全額を控除するか(優遇措置B)を選択することができます。

2つめは、未上場ベンチャー企業株式を売却等した年に受けられる優遇措置で、売却損失が発生した場合(及び破産、解散等により株式の価値がなくなった場合)に、その損失を、その年の他の株式譲渡益と通算(相殺)することができ、かつ、その年に通算(相殺)しきれなかった損失については、翌年以降3年間にわたって、順次株式譲渡益と通算(相殺)することができます。なお、ベンチャー企業へ投資した年にいずれかの優遇措置を受けた場合には、その控除対象金額を取得価額から差し引いて売却損失を計算します。

3.エンジェル税制の適用要件と資本政策

(1)エンジェル税制の適用要件の概要

エンジェル税制の適用要件は、大きく、ベンチャー企業要件と個人投資家要件の2つに分かれますが、その概要は経産省のサイトに記載されているとおりです。エンジェル税制要件判定シートも掲載されており、かなり親切なものになっています。また、各種申請書や手引きなども充実しており、手続を行うこと自体はそれほど難しいものではありません。

エンジェル税制の対象要件(経済産業省)

エンジェル税制要件判定シート(PDF)

(2)ベンチャー企業要件と資本政策

ベンチャー企業の要件の1つとして「外部(特定の株主グループ以外)からの投資を1/6以上取り入れている会社であること」という要件が定められています。そもそも対象企業とならない場合は仕方がありませんが、対象企業となる場合には、資本政策に気をつければ、エンジェル税制の適用が可能になってきます。

「特定の株主グループ」というのは、発行済株式総数の30%以上を保有している株主グループ(個人とその親族等)を意味します。

「外部からの投資を1/6以上取り入れていることとは」というのは、30%以上を保有している特定の株主グループが保有している株式の合計数が、発行済株式総数の5/6を超えないことをさしますが、発行済株式総数の50%超を保有している株主グループがいる場合には、その株主グループの保有している株式の数だけで発行済株式の総数の5/6を超えなければ、この要件を満たすものとされています。

例えば、共同創業者が2名いて、45%ずつ株式を保有しており、その他の役員や従業員が10%を保有している場合には、45%+45%=90%を特定の株主グループが合計で保有していることになるので、上記の要件を満たさないことになります。

他方、例えば、創業者(社長)が80%、その他の役員や従業員が20%を保有している場合には、この要件を満たすことになります(役員・従業員が社長の親族等ではない場合)。

後者の例は、過半数を超える株数を創業者の中心人物が保有しつつ、他の共同創業者や役員・従業員が合計で1/6以上の株式を保有していればよいので、比較的多くの会社で採用可能な資本政策になりうると思います。1/6が1/10ぐらいになると、資本政策的にはさらに適用可能がケースが増えそうですが、現状でも、他の役員・従業員や、創業者の友人、アドバイザー等のエンジェルラウンドよりも先に投資することの多い関係者の保有比率が、17%程度あれば適用可能なので、そこまでハードルが高いわけではなく、適用要件を満たすことが可能でも適用を受けていないケースも多いように思います。

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