利用規約の作成・運用上の注意点(2014年1月版)

 

2014年新年スタートアップ向け無料法律相談】(無料相談にいらした方には利用規約のサンプルを差し上げます)

昨年・一昨年と、藤川さん主催で利用規約ナイトというイベントを実施しました(第3回があるかどうかは未定ですが初回に戻って小さくやりたいと思っています)。

Webサービスやスマートフォンアプリを提供する際には、利用規約を提示してユーザーの同意を得た上で利用してもらう必要があります。既存のサイトで実際に使われているものを参考にしたり、公開されているサンプルもありますので、一から作ることは少ないと思いますが、個々の規定の意味は、作成時に理解しておく必要があります。

利用規約が真剣に読まれるのは、契約書と同様、実際にトラブルが発生したとき(もっとも真剣に読まれるのは裁判になったとき)ですが、作成時に理解しておかないと、その後はあまり利用規約に目を通すことはないのが通常です(本当はサービスを運営していく中で随時見直しを行う必要があります)。

そのため、利用規約の「作成」を依頼された際は、基本的に最初のドラフトは依頼者の方に作成してもらうようにしています。最初から弁護士が作成してしまうと、依頼者の方が真剣に読まない可能性があるからです。

今回は、利用規約の作成・運用上の基本的な留意点について解説します。

1.他社のプラットフォームを利用する場合の注意

利用規約の問題としては、少し変わった点からはじめます。

facebookやtwitteといったソーシャルメディア(プラットフォーム)の普及に伴い、これらのプラットフォームをベースに自社のサービスを展開するサービス提供者も増えていますが、このようなサービスにおいては、ベースとなるプラットフォームにおいて、自社のサービスが展開できなくなるような利用規約の変更が行われる可能性があることに注意する必要があります。

この場合、プラットフォームに対して、変更をしないように求めたり、損害賠償を請求したりすることは事実上困難です。したがって、プラットフォームを利用する場合には、プラットフォーム側が禁止する可能性はないか、サービスを始める前に十分に検討しておく必要があります。

2.サービス内容の説明

利用規約の中でサービス内容の説明をするか否かは、規定の効力(効果)の問題としては基本的に関係ありませんが、ユーザーへのわかりやすさという点では、冒頭で端的にサービス内容を説明しておくのはよい方法です。最近、米国等では、利用規約をわかりやすいものにするために様々な工夫をしたものがみられるようになり、日本でも通常の規約形式ではなく工夫をこらす例も出てきていますが、後の紛争に備えるという意味では従来の規約形式としつつ、FAQやサービスの説明を詳細にするほうがよいという考え方もありうるところです。

3.アカウントの作成・削除

(1)アカウントの作成(登録)

Webサービスやアプリケーションの利用の際、まずユーザーにアカウントの作成を要求するのが一般的です。このアカウント作成の際に、利用規約への同意を取得することになりますが、同意の取得については、規約の変更の問題を含めて、のちほど解説します。

アカウント作成にあたっては、ユーザーに一定の情報の提供を求めてユーザーとして登録するかたちをとるのが一般的です。利用規約に違反した場合などに、そのユーザーに対するサービスの提供をやめる必要がある場合には、このアカウントを停止・削除したり、ユーザー登録を取り消したりすることになります。

(2)拒否事由と未成年者

アカウントの作成・ユーザー登録に際しては、拒否事由を定めることが多くなっています。ユーザーから提供される情報に虚偽があった場合などのほか、特に課金の発生するサービスでは、ユーザーが未成年者の場合が問題となります。

未成年者(20歳未満)の法律行為は、法定代理人の同意がない場合には原則として取り消すことができます。したがって、未成年者のユーザーが法定代理人の同意なく利用して課金が発生した場合には、事後的に同意がなかったとして取り消されると、いったん支払われた料金の返金が問題となることになります。法定代理人の同意を得ているか否かを確認することは、通常困難です(未成年者であるか否かの確認も、身分証明書の写しの提出を求めるような金融関連のサービスなどを除いては困難です)。

したがって、未成年者の利用を認める場合には、法定代理人の同意がない場合には取り消される可能性があるものとして、利用規約で、未成年者で法定代理人の同意がないことを拒否事由と規定することが多くなっています(その場合、のちほど述べる登録の取消事由としても規定することになります)。

また、ユーザーが過去にそのサービスを利用し、利用規約違反等によって次に説明するアカウントの削除をされた場合、再びアカウント登録をしようとすることも考えられるため、この場合、アカウント登録を拒否し、また、後に利用を停止し、アカウントを削除できるよう、拒否事由・削除事由等として規定しておく必要があります。

(3)アカウントの停止・削除(登録取消)

ユーザーが利用規約に違反したり、不適切な行為を行ったりした場合には、そのユーザーへのサービス提供をやめることができるように、アカウントの一時停止・削除やユーザー登録の取消等について定めておく必要があります。サービスの提供者がユーザーに対して損害賠償を請求することは実際にはあまり考えられず、問題が起きた場合のサービス提供者のアクションとしては、問題となった投稿等の削除や前述の登録拒否のほか、アカウントの一時停止や削除(ユーザー登録の取消)等を行うのが通常です。停止・削除等の事由としては、前述の拒否事由があった場合(未成年者が法定代理人の同意を得ていなかった場合など)、利用規約違反、登録情報が虚偽であった場合、特に有料のサービスでは資力に問題が生じた場合などが考えられます。また、すべての事由を列挙することは困難なため、個別の列挙事由のほかに、サービス提供者が必要と判断する場合といった包括的な規定も定めておく必要があります(ただし、後述のとおり、該当するか否かでもめないためには個別の列挙事由を詳細に定めたほうがよく、サービスを運用していくなかで新たに生じた類型については随時追加していく必要があります)。なお、一時停止については、停止期間をあらかじめ定めておく場合もあります。

また、一定期間以上休眠しているアカウントについては、サービスの提供者の判断でアカウントを停止ないし削除できるようにしておくことも検討しておく必要があります。ユーザーが死亡した場合についても、休眠アカウントのひとつとして対応することも可能ですが、死亡の時点でサービスを退会したものとし、ユーザーの権利義務は一身専属的なものとして相続されない旨を明記する場合もあります。

以上とは逆に、ユーザーがサービスの利用をやめたい場合の削除手続についても定めておくのが通常ですが、サービス内容により、ユーザーが義務を負う場合(ユーザーが商品等を販売する場合など)には一定の制限を設ける必要があります。あわせて、ユーザーが誤ってアカウント削除をしてしまった場合にアカウントの復旧を認めないときには、その旨を規定しておく必要があります。

なお、上記にも関連しますが、ユーザーのデータ(コンテンツ)が保存されているサービスでは、サービス提供者は保存義務を負わず、バックアップが必要な場合にはユーザーが自分でバックアップする旨も規定しておく必要があります(データ保存のためのサービスはもちろん除きます)。

4.サービスの提供

サービスの提供は利用規約に従って有効に登録された期間についてのみ行われる旨と、サービスの提供を受けるにあたって必要となる機器や環境については、ユーザーが準備する旨を規定するのが通常です。

5.サービスの停止・変更・終了・限定 

メンテナンス等でサービスを一時的に停止する場合についても利用規約に規定しておくのが一般的ですが、これに加えて、サービス内容を変更したり、サービスの提供を終了することについても、規定しておく必要があります。

一時的な停止と比較して問題が生じる可能性が高いのはこちらの場合で、特に、課金が発生するサービスや、ユーザーにポイント等を付与しているサービスでは、変更や終了に伴い、支払済みのユーザーやポイント等への対応をどのようにするのかについて利用規約にも規定しておく必要があります(もちろん利用規約への規定だけこと足りるわけではなく、実際に変更・終了する場合に、ユーザーに不当な不利益が生じないように配慮しつつ進める必要があります。)。

また、未成年者保護等のために、ユーザーの年齢や本人確認の有無等によって、サービスを利用できる範囲に差をつける場合がありますが、その場合は、その旨を利用規約に明記しておく必要があります。

6.禁止事項 

ユーザーがサービスを利用するにあたっての禁止事項を規定するのが一般的です。禁止事項を規定する際には、違反した場合の効果についても定めておく必要があります。通常は、損害賠償、コンテンツの削除、アカウントの一時停止・削除、ユーザー登録の取消などを定めておきます。

禁止事項の内容は、個々の具体的な禁止事項と、その他当社が不適切と判断する行為といった包括的な規定の2つから構成されます。

具体的な禁止事項は、法令違反、公序良俗違反、利用規約違反、他人の権利侵害、サービスの運営妨害などほとんどのサービスに共通するもののほか、サービスの内容に応じて、想定される禁止事項を規定しておく必要がありますが、個々の禁止事項をすべて列挙することは困難なので、包括的な規定も必ず設けておく必要があります。ただし、実際に裁判で争われた場合には、包括的な規定によって問題となっている行為を本当に禁止することができるか否かが争われる可能性があるため、想定しうる限り、具体的な禁止事項を定めておくのが妥当です。また、当初は想定していなかった事項についても、サービスを運営していくなかで実際に発生した問題がある場合には、規約を改訂して随時禁止事項に加えていく必要があります。特に、いままでなかった新しいサービスについては、禁止事項についても、いままで想定していなかった事項が出てくる可能性があるので十分注意する必要があります。

なお、営業目的でのサービスの利用については、サービスの性質より、一切禁止する場合、サービス提供者が認める方法以外は認めない場合等、禁止の範囲が変わってくることになるので、サービス内容に応じて規定することになります。

7.個人情報(プライバシー・ポリシー)

個人情報(プライバシー情報)の取扱いについて利用規約中に規定する例もありますが、基本的には、プライバシー・ポリシーの中にまとめて規定するのがわかりやすいと思います。その場合、利用規約では、プライバシー・ポリシーに従って取り扱う旨を規定します。ただし、特に取得する情報の範囲や利用の仕方について問題の生じうるサービスについては、明確に、取得する情報の範囲や利用の仕方について記載した上でユーザーの同意を取得する必要があります。

8.免責条項と消費者契約法

サービスの提供者が責任を負わない場合について、特に問題が生じる可能性がある場合については、個々の規定とともにサービス提供者の責任を制限する規定するのが通常です。

ただし、事業者が消費者と締結する消費者契約については、消費者契約法により、消費者に不利な条項が無効とされる場合があります(消費者契約法8条から10条)。したがって、利用規約に基づくサービス提供者とユーザーの関係においても、利用規約の規定が無効とされる可能性があります。このため、個々の免責規定とは別に、サービス提供者が負う損害賠償責任の範囲についての規定と、利用規約の一部が無効とされた場合の残りの規定の効力や解釈の仕方についての規定(分離可能性)をもうけておく必要があります。

消費者契約法により無効とされる可能性があるのは、以下の規定です。最後の(5)は包括的な条項になりますが、消費者の解除・解約の制限をする場合、事業者の解除・解約の要件を緩和する場合、消費者の一定の作為・不作為により一定の意思表示がなされた(なされなかった)ものとみなす場合などがこれに該当しうるとされています。最後の規定については、利用規約(およびその変更)への同意取得についても問題となる可能性があります。

  1. 事業者の消費者に対する債務不履行責任、不法行為任責任、有償契約の瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を全面的に免責する条項(8条)
  2. 事業者の故意・重過失による債務不履行責任、不法行為責任を一部でも免除する条項(8条)
  3. 契約解除の際に同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える損害賠償の額を予定した条項または違約金を定める条項(当該平均的な損害の額を超える部分について無効、9条)
  4. 年率14.6パーセントを超える遅延利息(年率14.6パーセントを超える部分について無効、9条)
  5. 民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの(10条)

なお、消費者契約法については、消費者庁のサイトも参考にしてください
http://www.caa.go.jp/planning/index.html#m02

9.知的財産権・コンテンツに関する権利

サービス提供者が提供するコンテンツはサービス提供者に帰属し、ユーザーはサービスを正当に利用する限りにおいて使用できる旨を規定するとともに、ユーザーによって投稿等がなされるサービスにおいては、投稿されたコンテンツの権利の帰属についても規定しておく必要があります。

著作権については、ユーザーの著作物については、基本的にユーザーに帰属することになるので、サービス提供者がサービスやプロモーションにこれを利用するには、ユーザーの許諾が必要になります。以前は、これらの権利がユーザーからサービス提供者に譲渡される旨を規定する例もありましたが、反感を買うことが多かったため、近時はユーザーに権利が帰属するとしつつ、サービス提供者は、サービスやプロモーションに無償で使用できる旨を規約に定める例が多くなっています。

10.規約への同意と変更・利用料金

  (1)利用規約への同意

上記のように利用規約にはさまざまな内容を規定しますが、そもそも利用規約は、サービス提供者とユーザーの間で利用規約の内容に従った契約を成立させるためのものです。そして契約が成立しているというためには、ユーザーが利用規約の内容に同意している必要があります。

通常は、利用規約の内容をなるべくわかりやすくユーザーに提示した上で、利用規約に同意した上で申込む形式を採用し、そのログを取得・保存しておくことによって、同意を取得し、その証拠を保存しておきます。利用規約の提示の仕方については、可能な限り、内容を読んだであろうと想定しやすい形式にすべきですが、最終的には、ユーザーの離脱率等も考慮のうえで決定することになります。

利用規約のうえでは、サービスを利用した場合には同意したものとみなすと規定することが多いですが、実際には上記のように同意を取得するプロセスを経る必要があり、規約の記載だけで済ませるのは妥当ではありません。

(2)規約の変更

利用規約を変更した場合には、当然にユーザーが変更後の規約に同意したことになるものではなく、あらためて変更後の規約への同意が問題となります。

基本的には、変更の場合も、当初と同様にユーザーの同意が必要となりますが、個々のユーザーから同意を取得するのは困難な場合が多いため、あらかじめ利用規約に一定の場合にはユーザーが同意したとみなす旨を規定しておくのが現実的ですが、単に利用規約への記載のみとすると同意があったとは認められない可能性も残ります。

そのため、ユーザーが変更内容を認識できるように、利用規約に定める方法によりユーザーに変更内容を通知するとしたうえで、ユーザーが通知後にサービスを利用した場合や一定期間内にアカウントを削除しない場合等には、変更に同意したとみなすといった方法が考えられます。

(3)利用料金・ポイント等

完全に無料で提供されるサービスを除き、利用料金やサービスで利用可能なポイントについても規定が必要となります。

利用料金やポイントについては、利用規約の他の規定に比べて、変更の可能性が大きいことから、利用規約には具体的に記載せず、別の規定としたり、別途定めるとしているケースもありますが、その場合は、利用規約とは別に料金についての規定や料金の内容についても同意を取得しておく必要があります。同意の取得と変更の際の注意点は、上記の利用規約の場合と同様ですが、当初の同意取得の際には、利用規約といっしょに表示しておくのがわかりやすく、簡便です。

 (4)注文・配送・返品・キャンセル等

商品等を販売するサービスでは、注文の成立するタイミングや、配送時期・配送方法のほか、商品等を返品したりキャンセルしたりする場合の取扱いについては、トラブルになりやすいため、比較的詳細に規定しておく必要があります。

これらについても利用料金やポイントと同様に、利用規約には具体的に記載せず、別の規定としたり、別途定めるとしているケースもありますが、その場合に利用規約と別に同意を取得しておく必要がある点等についても利用規約やポイントを別規定とする場合と同様です。

(弁護士猪木俊宏/猪木法律事務所)

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